マンションで暮らしていると、防災の備えをどこにしまえばいいのか迷いがちです。戸建てのような物置や床下収納がなく、クローゼットも生活用品で埋まっている。備蓄を増やしたくても、置き場所がまず思い浮かばないという家庭は少なくありません。
さらにマンションには、戸建てにはない事情があります。地震や停電でエレベーターが止まれば、水や食料を階段で運び上げるしかありません。高層階ほど揺れは大きく、避難所に移るより自宅にとどまる在宅避難が基本になります。
だからこそ、マンションの防災備蓄は「量」と「収納の工夫」を戸建てとは分けて考える必要があります。戸建てとの違い、在宅避難を前提にした必要量、限られた収納に分散して収めるコツ、そして無理なく始める一歩までを、これから備える人にも分かるようにまとめました。
マンション防災備蓄と戸建ての違い
マンションの備蓄を戸建てと同じ感覚で進めると、いざというとき運べない・置けないという壁にぶつかります。まずは集合住宅ならではの事情を、戸建てと比べながら押さえていきましょう。
マンションは在宅避難が前提になりやすい
マンションの防災でまず押さえたいのは、被災後も自宅で暮らす在宅避難が基本になる点です。鉄筋コンクリートの建物は倒壊や延焼に比較的強く、避難所も全世帯を収容できません。自宅が住める状態なら、そのまま自宅で過ごすことがすすめられています。
下の表に、戸建てとマンションで備えの前提がどう変わるかをまとめました。
| 項目 | 戸建て | マンション |
|---|---|---|
| 収納スペース | 物置・床下・庭に余裕がある | 限られ、分散が前提 |
| 水や物資の搬入 | 玄関から直接運べる | エレベーター停止で階段運搬 |
| 停電時の給水 | 影響が出にくい | 給水ポンプ停止で断水しやすい |
| 避難のしかた | 屋外避難もしやすい | 在宅避難が基本 |
| 地震の揺れ | 比較的小さい | 高層階ほど大きい |
在宅避難が前提ということは、ライフラインが止まった数日間を自宅の備蓄だけで乗り切るということです。だからこそ、この後に見る搬入や収納の制約が、そのまま備えの成否に直結します。まずは「自宅にとどまる」を前提にして、必要な量を見積もっていきましょう。
停電するとエレベーターと給水が同時に止まる
マンション特有のリスクが、停電でエレベーターと水道が同時に止まることです。多くのマンションは、屋上の水槽やポンプで各階へ水を送っています。停電でこのポンプが動かなくなると、水道自体は断水していなくても蛇口から水が出なくなります。
同時にエレベーターも停止するため、上の階ほど生活の負担は大きくなるでしょう。復旧までの数日間、水も物資もすべて階段で運ぶことになりかねません。
この「電気が止まると水も上下移動も止まる」という連鎖が、戸建てとの一番大きな違いです。停電と断水はセットで起こると考えて、水の確保と運搬の両方に備えておきましょう。
水や物資の運搬が階段頼みになる
エレベーターが止まれば、重い水や食料の運搬はすべて階段になります。2リットル6本入りの水は1箱で約12キロあり、これを高層階まで運び上げるのは大人でも重労働です。被災したあとに何度も買い出しへ往復するのは、現実的ではありません。
とくに小さな子どもや高齢者がいる家庭では、階段での搬入がさらに難しくなります。エレベーター停止を前提にすると、「あとで買い足せばいい」という考え方が通用しなくなるのです。
だからマンションでは、買い出しに頼らず、はじめから多めに家へ置いておく発想が欠かせません。運べないことを前提に、備蓄の量を最初にしっかり確保しておきましょう。
戸建てより収納が少なく置き場所が限られる
マンションには、戸建てのような物置や床下収納、庭のストックスペースがありません。限られたクローゼットやパントリーは、日用品や衣類ですでに埋まっていることが多いものです。備蓄を増やそうにも、まとまった置き場所を確保しにくいのが実情でしょう。
収納が少ないと、つい備蓄そのものをあきらめてしまいがちです。けれど置き場所は、一か所にまとめて空けようとするから見つからないだけで、家の中に分けて考えれば意外と作れます。
限られた収納をどう使うかが、マンション備蓄の腕の見せどころになります。この後で紹介する分散収納の工夫を、自分の家に当てはめながら読み進めてみてください。
マンションで必要な備蓄量
運び足しがきかないマンションでは、最初にどれだけ持つかが、そのまま安心の量になります。ここでは在宅避難を前提にした日数と、家族に合わせた必要量の出し方を見ていきます。
在宅避難を前提に3日分から1週間分をそろえる
マンションの備蓄は、最低3日分、できれば1週間分を目標にします。大きな災害では電気や水道の復旧に数日から1週間以上かかることがあり、その間は自宅の備えだけで暮らすことになります。エレベーターが止まれば買い足しも難しいため、戸建て以上に日数の余裕を持たせておきたいところです。
3日分は災害直後の混乱を乗り切る最低ライン、1週間分はライフラインの復旧を待てる安心ラインだと考えてください。まずは3日分を確実にそろえ、置き場所に余裕が出てきたら1週間分へ広げていきます。
一度に全部そろえる必要はありません。3日分を土台にして、少しずつ積み上げていきましょう。
家族の人数と日数で必要量を計算する
必要な量は、1人あたりの基準に人数と日数をかけて出します。水は1人1日3リットル、食料は1人1日3食が目安です。3人家族の3日分の水なら、3リットル×3人×3日で27リットルになります。
下の表に、人数別の水と食料のおおよその必要量をまとめました。自宅の人数の行を目標にすると、そろえる量がつかみやすくなります。
| 家族の人数 | 水(3日分) | 水(1週間分) | 食料(1週間・1人3食) |
|---|---|---|---|
| 1人 | 9L | 21L | 21食 |
| 2人 | 18L | 42L | 42食 |
| 3人 | 27L | 63L | 63食 |
| 4人 | 36L | 84L | 84食 |
数字が大きく見えても、2リットル6本の箱やレトルトのまとめ買いに置き換えれば、そろえられる量です。まずは表の3日分を最初の目標にして、足りない分から買い足していきましょう。
運び上げにくいぶん水と食料を多めに確保する
マンションでは、目安ぴったりではなく少し多めに持っておくと安心です。エレベーター停止で買い足せない期間が長引くことを考えると、戸建てのように「近所で買えばいい」という前提が使えません。とくに水は消費が読みにくく、手洗いや歯みがきにも使うため不足しがちです。
多めといっても、際限なく増やす必要はありません。3日分の備えに、予備として数本の水と数食のレトルトを上乗せしておく程度で十分でしょう。
運べないぶんを最初の在庫で補うのが、マンション備蓄の基本の考え方です。少し多めを合言葉に、無理のない範囲で確保しておきましょう。
限られた収納に備蓄を収める工夫
置き場所がないと感じるのは、備蓄を一か所にまとめようとするからです。家の中に分けて考えると、限られた収納でも必要な量は収まります。
収納は一か所に集めず家の中に分散させる
マンションの備蓄は、一か所に集めず家のあちこちに分けて置くのがコツです。キッチンの床下、玄関の靴箱の隙間、寝室のクローゼット、ベッドの下など、少しずつ空いた場所へ振り分けていきましょう。1か所に大きな空きを作れなくても、家全体に分ければ、まとまった量でも無理なく収まるからです。
分散して置くことには、収まる以外の利点もあります。地震で一部屋が使えなくなっても、別の場所の備蓄が生き残るため、すべてを一度に失わずにすむのです。玄関に近い場所へ一部を置いておけば、いざというときの持ち出しにも役立ちます。
まずは家の中で少しでも空いている隙間を探し、そこを備蓄の指定席にしていきましょう。

デッドスペースや家具のすき間を備蓄に使う
分散するときに頼りになるのが、ふだん使っていないデッドスペースです。ベッドの下、ソファの下、家具と壁のわずかな隙間、階段下の収納などは、備蓄の置き場所として活かせるでしょう。奥行きの浅いケースや、キャスター付きの薄型ボックスを選ぶと、こうした隙間にも収めやすくなります。
とくにベッド下や床に近い低い位置は、重い水や缶詰の置き場所に向いています。低いところは取り出しやすく、地震で落ちてくる心配も少ないためです。
生活空間を削らずに増やせるのが、デッドスペース活用の強みでしょう。家の中の使えていない隙間を、一度ぐるりと見回してみてください。
ローリングストックで収納を増やさず回す
収納そのものを増やせないなら、備蓄を「置きっぱなし」から「使いながら回す」に変えると負担が減ります。ローリングストックは、普段食べている食品を少し多めに買い、古いものから使って、減った分を買い足す備え方です。専用の非常食を別に抱え込まないぶん、収納の圧迫が小さくなります。
普段の食品と備蓄を分けないので、パントリーの一角があれば回せます。特別な保管場所を新たに作らなくても、日常の延長で備えが積み上がっていくのです。
限られた収納のマンションほど、この回す備えが向いています。まずは主食と水から、いつもの買い物で1つ多めに買うところから始めてみてください。

重い水や缶詰は低い位置に置いて転倒に備える
分散して収める際は、重いものをどこに置くかにも気を配ります。水や缶詰などの重い備蓄は、高い棚の上ではなく、床に近い低い位置へまとめます。高所に重い箱を積むと、地震のときに落下して大けがや、避難路をふさぐ原因になりかねません。
低い位置は、取り出しやすさの面でも理にかなっています。重い箱を頭の上まで持ち上げずにすみ、日々の出し入れが楽になるからです。棚の上段には、ティッシュやカイロなど軽くてかさばるものを回すとよいでしょう。
収納の工夫は、収まることと安全に取り出せることの両方で考えましょう。重いものは下、軽いものは上を基本にして、置き場所を決めていってください。

マンション防災備蓄のはじめの一歩
あれもこれもと考えると、収納の少なさに気持ちが折れてしまいます。最後に、続けるための線引きと、今日から踏み出せる一歩をまとめます。
備えすぎず生活空間を圧迫しない範囲にする
マンション備蓄で気をつけたいのが、不安から増やしすぎて生活空間を圧迫することです。通路や居室に段ボールが積み上がると、暮らしにくくなるうえ、地震のときはかえって危険な障害物になります。備蓄は、日常の生活を邪魔しない範囲に収めるのが適量です。
限られた収納だからこそ、「たくさん持つ」より「切らさず回す」を目標に置きましょう。3日分から1週間分を分散して収め、ローリングストックで回していれば、量を欲張らなくても備えは足ります。
収納に少し余裕を残しておくことが、長く続けるコツです。暮らしやすさと備えのバランスを見ながら、無理のない量にとどめてください。
はじめの一歩は水と簡易トイレの常備から始める
何から手をつけるか迷うなら、まずは水と簡易トイレの2つから始めます。在宅避難では、飲み水と、断水中でも使えるトイレが欠かせません。水は家族の3日分、簡易トイレは1人1日5回分を目安に、床に近い場所へ分散して置いておきます。
この2つが用意できたら、次にレトルトや缶詰などの食料、明かりや電池を少しずつ足していきましょう。一度に完璧をそろえる必要はありません。
今日の買い物で、水を1箱と簡易トイレを1セット。マンションでも、そこから確実に備えは始められます。まずは運べるうちに、最初のひと箱を家に入れておいてください。
まとめ
マンションの防災備蓄は、戸建てとは前提が違います。エレベーターや給水ポンプは停電で止まり、水や物資は階段で運ぶしかなくなるため、買い足しに頼らず在宅避難を前提に備えるのが基本です。量は最低3日分、できれば1週間分を、家族の人数と日数から計算して少し多めに確保します。収納が少なくても、一か所に集めず家の中に分散させ、デッドスペースを使い、ローリングストックで回せば必要な量は収まるものです。重い水や缶詰は低い位置にまとめ、生活空間を圧迫しない範囲にとどめるのが続けるコツになります。まずは運べるうちに、水と簡易トイレから。今日ひと箱を家に入れるところから始めてみてください。


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