親と同居していても、離れて暮らしていても、災害のときにいちばん心配になるのが高齢の家族です。薬が切れたら、入れ歯や眼鏡をなくしたら、避難所の食事が食べられなかったら。若い世代なら我慢できる場面でも、高齢者にとっては体調悪化や命に関わる問題になりかねません。だからこそ、一般的な防災備蓄に薬と介護の備えを足しておくことが欠かせません。
とはいえ、何をどれだけ持てばいいのかは、本人の持病や体の状態によって変わります。おむつや介護食が必要な人もいれば、薬さえあれば大丈夫な人もいて、「うちの場合」の正解が見えにくいものです。
高齢者の防災備蓄で押さえたい基本から、常備薬とお薬手帳の備え方、そろえておきたい介護用品、食べやすい非常食の選び方、避難時の移動や在宅避難での配慮までをまとめました。同居する家族の顔を思い浮かべながら、必要な品を書き出す手がかりにしてください。
高齢者の防災備蓄で最初に押さえること
高齢の家族がいる家庭の備蓄は、一般的な防災備蓄と同じ品だけではまかないきれません。まず、なぜ医療と介護の備えを足す必要があるのか、そのうえで何から手をつけるのかを見ていきます。
高齢者の備蓄は医療と介護の備えを一般の品に足す
高齢者のいる家庭では、水や非常食といった一般的な備蓄に加えて、薬と介護に関わる品をそろえておく必要があります。持病の薬が切れれば数日で体調が崩れ、入れ歯や眼鏡がなければ食事も移動も難しくなるからです。若い世代なら数日の不便で済むことが、高齢者では健康の悪化に直結します。
まずは家族分の水と食料を3日から1週間分そろえ、その土台の上に高齢者向けの品を重ねると分かりやすくなります。一般的な備蓄については別記事で品目をまとめているので、そちらで全体像をつかんでから、この記事の医療と介護の備えを足していくと迷いません。
土台と上乗せを分けて考えると、何が足りていないのかがはっきりします。今の備蓄を一度広げてみて、薬と介護の視点で抜けを探すところから始めてみましょう。

本人の持病と体の状態を家族で書き出す
高齢者の備蓄でいちばん大事なのは、本人の持病や体の状態を家族で共有しておくことです。何の薬をいつ飲んでいるか、歩行や食事にどんな手助けが要るかを知らないと、いざというとき必要な物をそろえられません。同居していない家族ほど、この情報が抜けやすくなります。
紙かスマホのメモに、持病名と服用中の薬、かかりつけ医、アレルギー、介護の要否を一覧にしておきましょう。本人が説明できない状況になっても、家族や支援者がこのメモを見れば対応できます。年に一度、正月やお盆など家族が集まるタイミングで更新すると、内容が古びません。
書き出す作業そのものが、必要な備蓄品を洗い出す第一歩になります。まずは持病と薬の欄から埋めて、足りない備えを一つずつ見つけていってください。
常備薬とお薬手帳の備え
高齢者の備蓄で最優先になるのが、毎日飲んでいる薬とその情報です。ここでは、常備薬をどれだけ持つか、お薬手帳や持病の情報をどう備えるかを見ていきます。
常備薬は最低1週間分を予備でストックする
毎日服用している薬は、災害で買えなくなる場面に備えて予備を持っておきたいところです。目安は手元の残りとは別に最低でも数日から1週間分で、災害時は薬局や病院が動けず処方を受けられないことがあるからです。持病のある高齢者にとって、薬の中断は避けたい事態になります。
ただし、薬の量を増やしたり自己判断で長めにためたりするのは避け、予備を持ちたい旨を主治医や薬局に相談してください。多めの処方が難しくても、災害用に手帳へ処方内容を控えておくだけで再入手がスムーズになります。冷所保存が必要な薬は、保管方法もあわせて確認しておきましょう。
まずは今飲んでいる薬を書き出し、何日分の予備があると安心かを主治医と話しておくことが確実です。切らせない仕組みを先に作っておいてください。
お薬手帳はコピーを持ち出し袋に入れる
お薬手帳は、避難先で医師や薬剤師に服薬内容を正しく伝えるための大切な記録です。原本を持ち出せないときに備えて、コピーを取って防災の持ち出し袋に入れておくと安心できます。スマホの写真に撮っておけば、手帳を忘れても画面で見せられます。
手帳のコピーには飲んでいる薬だけでなくアレルギーや副作用の記録も含まれるため、初めて診てもらう医療者にも短い時間で伝えられるでしょう。マイナ保険証や診察券のコピーも一緒にまとめておくと、身元と受診履歴の確認がスムーズです。ジッパー付きの袋に入れて水濡れを防いでおくと、いざというとき役立ちます。
年に数回、手帳が最新かを見て、古いコピーは新しいものに差し替えておきましょう。薬が変わったら、そのつど写真も撮り直しておくと確実です。
持病とアレルギーの情報を1枚にまとめる
薬の予備と手帳に加えて、持病やアレルギーの情報を1枚の紙にまとめておくと、緊急時の伝達が早まります。本人が意識を失ったり慌てて説明できなかったりしても、その1枚があれば家族や救助者が状況を把握できます。高齢者は複数の持病を抱えることが多く、口頭だけでは伝えきれません。
書く内容は、持病名と服用薬、かかりつけ医と連絡先、アレルギー、血液型、介護の要否あたりが基本です。持ち出し袋と本人の財布の両方に入れておけば、離れた場所で被災しても情報が届きます。緊急連絡カードとして市販や自治体配布のものを使うと、記入もれを防げます。
まずは1枚の紙に手書きで書き出し、家族全員が保管場所を知っている状態にしておきましょう。半年ごとに見直して、変わった点を書き足しておいてください。
高齢者に欠かせない介護用品の備蓄
介護が必要な高齢者では、一般の備蓄品だけでは足りない専用の品があります。ここでは、そろえておきたい介護用品を、備える理由と必要量の考え方とあわせて見ていきます。下の表に、代表的な品目と備える理由、量の目安をまとめました。
| 品目 | 備える理由 | 量の目安 |
|---|---|---|
| 大人用おむつ・尿取りパッド | 断水やトイレ不足で交換が滞る | 1日の使用枚数×3〜7日 |
| 介護食・やわらかい食品 | 通常の非常食は硬くて食べにくい | 1日3食×3〜7日 |
| とろみ剤 | 水分でむせる誤えんを防ぐ | 飲む回数分+予備 |
| 入れ歯洗浄剤・保管ケース | 断水で洗えず不衛生になる | 洗浄剤1箱・ケース1 |
| 眼鏡・補聴器の予備 | 紛失や破損で生活に支障が出る | 予備各1・電池を多めに |
| おしりふき・清拭シート | 入浴や洗浄ができない | 大判を多めに |
大人用おむつは1日の使用枚数から必要量を出す
排せつに介助や紙おむつが要る高齢者では、大人用おむつと尿取りパッドを多めに備えておく必要があります。災害時は断水でトイレが流せず、避難所のトイレも数が足りないため、交換の頻度を保てないことが起きるからです。清潔を保てないと、皮膚のトラブルや感染にもつながります。
必要量の出し方は、ふだんの1日の使用枚数に備える日数をかけるだけです。1日6枚使うなら1週間で42枚が目安で、パッドを併用して交換回数を減らす工夫も役立ちます。サイズや吸収量は本人に合うものを選び、ふだん使っている製品を切らさないよう回して備えておきましょう。
まずは1日に何枚使うかを数え、3日分と1週間分の必要数を紙に書いておいてください。使いながら買い足すローリングストックにすると、期限切れも防げます。
入れ歯と眼鏡と補聴器は予備と洗浄用品をそろえる
入れ歯や眼鏡、補聴器は、高齢者が食事や生活を送るうえで欠かせない道具です。避難のときに置き忘れたり壊れたりすると、食べる・見る・聞くといった基本の動作がとたんに難しくなります。とくに入れ歯がないと、非常食を噛めず栄養がとりにくくなります。
対策として、眼鏡と補聴器は古いものでよいので予備を1組ずつ持ち出し袋に入れておきましょう。補聴器は替えの電池を多めに、入れ歯は洗浄剤と保管ケースをそろえておくと、断水中も清潔を保てます。ふだん使う場所を家族が把握しておけば、避難時の持ち出しも慌てずに済みます。
まずは予備の眼鏡と補聴器の電池、入れ歯洗浄剤を持ち出し袋に足しておいてください。本人が使っている型番を控えておくと、買い足しも早くなります。
清潔を保つ衛生用品を多めに備える
断水すると入浴や手洗いができず、体をふくための衛生用品が欠かせなくなります。高齢者は肌が乾燥しやすく、皮膚のトラブルや感染も起こしやすいため、清潔を保つ品を一般家庭より多めに用意しておきたいところです。おしりふきや大判の清拭シートは、おむつ交換と体ふきの両方に使えて重宝します。
ドライシャンプーや口腔ケア用のウェットシートもあると、寝たきりに近い人の清潔も保ちやすくなるでしょう。使い捨ての手袋やゴミ袋をそろえておけば、介助する家族の負担と衛生リスクも下げられます。衛生用品の詳しい品目は、別記事で断水時の備えとしてまとめています。
まずは清拭シートとおしりふきを多めに買い置きし、使った分を補充する形で回してみてください。介助する側の手指消毒もあわせて備えておくと安心です。

高齢者が食べやすい非常食の選び方
一般的な非常食は、高齢者には硬かったり味が濃かったりして食べにくいことがあります。ここでは、飲み込みやすさと栄養に配慮した非常食の選び方を見ていきます。
おかゆとゼリーでやわらかい主食をそろえる
高齢者の非常食は、噛む力や飲み込む力が落ちていても食べられるやわらかさが第一の基準になります。硬いクラッカーや乾パンは、入れ歯や弱った歯では食べにくく、口の中を傷つけることもあるからです。レトルトのおかゆやおじや、やわらかいパンがゆなら、そのままでも温めても食べやすいでしょう。
エネルギーゼリーや果物のゼリーは、食欲が落ちたときでも口にしやすく、水分補給も兼ねられます。加熱せずに食べられる常温保存のものを選べば、停電中でもすぐ口に入れられるでしょう。ふだんの食事に近い味を選ぶと、被災時のストレスもやわらぎます。
まずはレトルトのおかゆとゼリーを数日分そろえ、本人が食べやすいと感じる商品を確かめておいてください。日ごろから一度食べてもらい、口に合うかを見ておくと確実です。
介護食ととろみ剤でむせと誤えんを防ぐ
飲み込む力が弱った高齢者では、水分や食事でむせる誤えんが心配になります。誤えんは肺炎につながることもあり、災害時の体調悪化を避けるうえで見過ごせないポイントです。市販の介護食やとろみ剤を備えておくと、こうしたリスクを下げながら食事を続けられます。
介護食には、やわらかさの程度で分かれた区分があり、本人の状態に合った硬さを選べるようになっています。とろみ剤は水やお茶、汁物に混ぜて飲み込みやすくする粉で、少量ずつ個包装になったものは配りやすく保存も利きます。ふだんから使っている人は、災害用にも同じものを多めに回しておくと安心です。
まずは本人がふだん食べている介護食の区分を確かめ、その硬さに合う非常食用を選んでおきましょう。とろみ剤も1週間分ほどを目安に、持ち出し袋と自宅の両方に分けて備えておいてください。
栄養補助食品でたんぱく質とエネルギーを補う
避難生活が続くと、おかゆやパンだけではたんぱく質やビタミンが不足しがちです。高齢者は少しの低栄養でも体力や免疫が落ちやすく、回復にも時間がかかるところです。栄養補助のゼリーやドリンク、ようかんなどは、少量でエネルギーを取れて食欲がないときにも向きます。
たんぱく質を補うなら、常温保存できる大豆や魚のやわらかいレトルト、飲むタイプの栄養食品が使いやすいでしょう。カルシウムや鉄分を意識した高齢者向けの栄養補助食品もあり、ふだんの不足を災害時に補う助けになります。甘いものが苦手な人には、塩味のスープ系を混ぜると飽きずに続けられます。
まずは栄養補助ゼリーやドリンクを数日分そろえ、本人の好みに合うものを選んでおいてください。ふだんから少しずつ食べて、口に合う味を見つけておくと安心です。
避難と在宅避難での高齢者への配慮
高齢者は避難そのものに時間と手助けが要り、避難所での生活も負担が大きくなりがちです。ここでは、移動の備えと在宅避難の考え方、支援者との連携までを見ていきます。
移動に備えて杖や車いすの動線を確保する
高齢者の避難では、歩く速さや足元の不安から、移動に人手と時間がかかることを前提に備えます。杖や歩行器、車いすを使う人は、災害で物が散乱すると動線がふさがり、玄関まで出られなくなることもあるからです。ふだんの通り道に倒れそうな家具がないかを見ておくと安心できます。
家具の固定や、廊下と玄関に物を置かない工夫は、高齢者の避難路を守るうえで役立ちます。車いすや歩行器は、すぐ使える場所に置き、タイヤや電池の状態も定期的に確かめておきましょう。夜間の被災に備えて、枕元に懐中電灯とはき慣れた靴を用意しておくと、暗い中でも動けます。
まずは本人が毎日通る動線を歩いてみて、避難の妨げになる物を減らしておいてください。手助けが要る場合は、誰がどう介助するかも家族で決めておくと確実です。
在宅避難を基本に必要な物を手元にまとめる
体への負担を考えると、高齢者は避難所へ行くより自宅で過ごす在宅避難が向く場合が多くあります。慣れない環境や集団生活は、高齢者にとって体調を崩す引き金になりやすいからです。自宅の安全が保てるなら、住み慣れた場所で過ごせるよう備えておく考え方が現実的でしょう。
在宅避難に備えるなら、薬と介護用品、食料と水を数日分、生活する部屋の近くにまとめて置いておきます。停電や断水でも過ごせるよう、簡易トイレやライト、カセットコンロもあわせて用意しておくと役立ちます。高齢者もペットもいる家庭では、動物の備えが別に必要になるので、あわせて確認しておくとよいでしょう。
まずは寝室やリビングなど、本人が長く過ごす部屋の一角を備蓄の置き場に決めておいてください。取り出しやすい高さにそろえておくと、本人だけでも動けます。

支援者と緊急連絡先を家族で共有する
高齢者、とくに一人暮らしや日中ひとりになる人では、被災時に誰が手を貸せるかを決めておくことが命綱になります。本人だけで避難できない場合、近所や親族の支えがないと、逃げ遅れや孤立につながりかねません。同居していない家族ほど、支援の手を前もって用意しておく必要があります。
自治体には、自力で避難が難しい人を登録する避難行動要支援者名簿の仕組みがあり、対象になるか窓口で確認できます。あわせて、近所の人や民生委員、離れて暮らす家族の連絡先を一覧にして、本人と家族の双方が持っておくと安心です。安否確認の方法や集合場所も、ふだんから話し合っておきましょう。
まずは、いざというとき本人に連絡し駆けつけられる人を書き出し、その連絡先を共有しておいてください。地域の支援制度は、市区町村の窓口で早めに確かめておくと確実です。
📦 高齢者向けの備えをまとめてそろえるなら
介護食や長期保存の非常食は、必要な品が一式そろったセットから始めると抜けが出にくくなります。本人の食べやすさと家族の人数を確かめて選んでみてください。
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まとめ
高齢者の防災備蓄は、一般的な水や食料の備えに、薬と介護の視点を足すのが基本です。常備薬は数日から1週間分を主治医に相談して予備で持ち、お薬手帳のコピーと持病の情報を持ち出し袋にまとめておきます。大人用おむつや介護食、とろみ剤、入れ歯や眼鏡の予備といった専用の品は、ふだんの使用量から必要数を出して用意しましょう。非常食は、噛みやすく飲み込みやすいおかゆやゼリーを中心に、栄養補助食品で不足を補います。避難では移動の動線を整え、体に負担の少ない在宅避難を基本に考えると安心です。支援者と連絡先を家族で共有し、まずは本人の持病と薬を書き出すところから備え始めてください。


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